INTERVIEW

【特別企画】インタビュー/盛一大 前編

ツールドおきなわが終わり
2008年のロードレースシーズンも一区切りです。

しかし!
ロードシーズンが終われば、休む間もなくトラックシーズンに突入です。

トラックレース、その最高峰は「世界選手権」
アルカンシエルという栄誉をかけて
本場ヨーロッパをはじめ、世界各国の素晴らしい選手たちが
緻密かつダイナミックに俊足を競い合う。
ロードレースの開放的な雰囲気とは全く違う、個と個の戦いです。

その世界選手権出場枠の獲得をかけて
ロードのオフシーズンと入れ替わりで
「UCIトラックワールドカップ」が行なわれます。

このワールドカップはすでに第1戦イギリス大会が開催され
第2戦は11月20日からオーストラリア・メルボルンで始まります。
先日発表がありましたが
このオーストラリア大会に、愛三レーシング盛一大(もり かずひろ)選手が
日本代表選手に選出されています。

というわけで今回は特別編。
トラックシーズン開幕にあわせ2回に渡り
盛選手のスペシャルインタビューをお届けしたいと思います。


(2008年アジア選手権トラックポイントレース・奈良競輪場にて)


ロードレースのチームである愛三レーシングから
ひとり、日本代表として世界のトップレベルで戦う盛選手。

まだまだ自転車の奥深いところまでは到底知りえていない
未熟者の管理人ハシモトですが、つたないながらも
「盛一大」という選手の魅力を少しでもお伝えできればと思います。

今シーズン、愛三レーシングの戦いの中で
その名前が飛躍的に踊った選手といえば、盛一大だろう。

8月に開催されたシマノ鈴鹿国際ロードレースでプロ初勝利を挙げ
翌月のツールド北海道では、全6ステージ中
第2ステージロード、得意の個人タイムトライアルで2勝を獲得。
その後10月にオーストラリアで開かれた
ヘラルドサンツアー(UCI2-1)では第2ステージ2位と強さを印象づけた。


(2008年ツールド北海道第3ステージ個人TT優勝)


(ポイントリーダジャージを着る盛選手)


もちろん過去にも、ジャパンナショナルチームのメンバーとして
ツールドランカウイなどのレースを走り
2006年のドーハアジア大会ではチームTTで銅メダルも獲得している。

愛三レーシングチームにおける盛選手は
エース西谷を中心としたチームの勝利に貢献するべく
2005年所属以来、献身的なアシストとしてその足を磨いてきた。
またその一方で
中距離種目において世界を舞台に戦い続けるトラックレーサーでもある。


盛選手は現在、26歳。
2006年のワールドカップシドニー大会ではポイントレースに出場し
初参戦でいきなり2位に入賞し鮮烈なデビューを果たす。
同年の世界選手権でも、ポイントレースで7位を記録。
以来、中距離種目における日本代表選手として
世界の頂点を目指し、戦い続けている。

トラック競技とロードレース。

個人戦とチーム戦、使う機材も違うし戦う距離も走り方もまったく異なる
この両方をこなしながら
丸2年を経過した盛選手にとって今年は特別な年となった。
オリンピックという舞台に挑むというミッションである。

トラックレースのシーズンは秋から翌年春先までの冬場。
一方ロードレースは春先から秋口までがオンシーズンとなる。

北京五輪開催年となった今年。
昨年秋口からトラックシーズンが開幕し
ほぼ半年間海外で活動しながら、世界と戦う準備を進めた。
年間4戦あるワールドカップの成績を経て
世界最高峰の戦いの場、世界選手権に出場、
そして6月の五輪代表選考まで、密度の濃い時間を過ごしてきた。


五輪開催年は各国トラックへの力の入れ方が例年とは異なり
ロードレースを走る一流選手も多数参戦するため
いやがおうにも走りのレベルはあがる。

トラックレースは、ロードとは異なり「種目」が存在するため
レベルの高い海外各国と同等に戦う土俵
つまり「出場枠」を獲得することがまず先決となる。
日本チームはその出場枠の獲得をまず念頭に置き戦った。


Q 
世界選手権までの怒涛の半年間を振り返ってどうでしたか?

盛 
トラック競技は明確な目標を定めないと動きにくいところが正直ありますが
今シーズンはワールドカップ4戦にすべて出場し
自分自身としては手ごたえを感じながら走ることができたと思う。
本格的にトラックを始めてわずかではありますが
このシーズンは経験としてとてもいいシーズンになったといえるのでは
ないでしょうか。

Q
ロードのオンシーズンを経てすぐトラックシーズンが始まり
丸一年、ロードとトラックで全力で走り続けることは
素人目からでも身体的にも精神的にも辛いのでは?と感じますが・・・


そうですね〜確かに身体は疲れますよ(笑)
でも、トラックはやはりロードに繋がる部分がとても多いんです。
スピード、ペダリングなど効果的な要素はたくさんあるし
筋力もかなりつきますから。

Q
今年は特に五輪イヤーとあって
世界選手権が終わってからチームに戻り
ロードを走るということは辛くはなかったですか?


たしかに4月は気が抜けていましたね・・・(笑)
でもチームは春先からもうすでにアジアツアーを走っていて
しっかりとシーズンに入っていた。

チームの一員としてみんなに迷惑をかけたくない思いもあったし
チームメイトの走りに刺激される部分もあったから
結局1週間だけしっかりと休んでから、すぐにロードシーズンに入りました。

トラックは一人で動く競技だけど、ロードはチームで動く。
考え方としては全く別のものなので
やるぞ、という気持ちに切り替えることができたと思います。

Q
しかし年間300日くらいずっとトップスピードですよね。
ただすごいとしか・・・


うーん。でも嫌じゃないんですよね。
「選んでもらって出れている」という意識が常にあるので
出れる環境ならば、率先して出たいと思う。
世界選手権にしたって、そうそう出れるものじゃないし。

トラックはやっぱり11月とかがキツイですね。
みんながオフに入るころ(笑)
正直「なんでオレばっかり・・・」なんて思うことも多少、あるけど。

でもその分、みんなが走れないレースを走らせてもらっている。
そう思えます。


オリンピックの出場枠獲得のため日本代表は戦った。
3月の世界選手権で盛選手は
個人種目である「スクラッチ」で果敢に攻めて6位と大健闘。
その一方で
飯島選手とコンビを組んだ「マディソン」では残念な結果となった。

様々なレースの結果を反映して与えられるオリンピック出場枠。
種目に対しての出場可能選手は1人か1組。
「スクラッチ」はオリンピック種目ではなく
「ポイントレース」では選ばれなかったため
盛が北京への切符を手にできる種目は「マディソン」が最も近かったのだが・・・。


今年目標にしていた五輪出場は果たせなかったものの
そこに近い場所で、各国の選手と戦える力を備えてきた盛選手。
五輪という舞台、世界で戦い勝利するということは
ほんの一握りの人間しかできないことであり
その場所にまず立つこと、が前提であり、
それには日本の代表として「選ばれる」という壁が存在する。

盛選手は端々で「選んでもらう」という言葉を口にする。

彼は比較的自分の思いを朗々と語る選手ではない。
競輪の強い茨城県立取手第一高等学校出身の盛選手は
卒業後、名門日本大学に進み
4年間鍛え抜かれて愛三レーシングに進んだ。

闘争心をあまり表に見せない「シャイな若武者」は
(ツールド北海道での盛選手のキャッチフレーズ。
 盛選手をよく表しているなぁといつも思う!)
環境や経験をひとつひとつ、自分のものにしながら
常に自らの役割を意識し、納得いく走りを追い求め続けている。


(2008年ツアーオブジャパン伊豆ステージ)

今の愛三レーシングでの練習環境、トラック競技への理解に対しても
盛選手は感謝の言葉を口にする。

選ばれるには実力がなければ話にならないが
「選ばれる」ということの重みも、そこから広がるすべてのことに於いても
常に意識する姿勢が、今の盛選手の謙虚な強さを物語っているような気がする。



(2008年アジア選手権トラック・奈良競輪場)

Q
トラック競技に於いて、今後の目標をあげるとすれば?


そうですね。
やはり世界チャンピオン、と言いたい。

それに近づけるか、それを勝ち取れるかはわからないが
「トラック」という世界にいる限り
そこに近づかなければ、きっと満足はできないんじゃないでしょうか?

Q
ほぼ一年間休みなしで走ることを続けるプレッシャーは?


やはりトラックとロードは別のものではないという意識があるから。
内容や、競技に対する気持ちの面では
個人とチームなので全く別ものにはなるけれど
自分としては、やっていることはすべて繋がっていて
お互いのためになって生かされていると感じています。

Q
北京五輪が終わり、4年後のロンドン、と
周りからのプレッシャーもあるかと思うが。


ロンドン・・・4年後ですよね。
まだまだ先ですよね。
一年一年、やっていくしかないですよね。

アルカンシエルを目指し積み上げていけばおのずとついてくる。
そう信じて進むだけです。

今の「選ばれている状態」でこの環境で走れることに感謝している。
トラックに関してはキープしていくことが大切だと思っています。
選ばれる選手であり続けることが、これからも必要だと思っています。


後半は近く掲載します。
お楽しみに!