INTERVIEW

【特別企画】インタビュー/盛一大 後編

特別企画としてお送りしている
愛三レーシング 盛一大(もり かずひろ)選手のインタビュー。

前回は「トラック」のお話を中心に紹介しましたが
今回は「ロード」のお話も交え
盛一大、という選手をもっと掘り下げてみたいと思います。



(2008年Jツアー飯田にて)



「夢はアルカンシエル」
トラックの世界において、そう明確な目標を掲げてくれた盛選手。

昨年、今年とチームを近くで見てきた私にとって
盛選手の献身的なアシストは
いつでも、ロードレースの醍醐味を感じさせてくれる。
よくチームメイトの別府選手が言っている
「強くなければアシストはできない」というフレーズ。
レースを動かす力がなければ、アシストなんてできるわけない。



(2008年ツールド熊野UCI2-2 第3ステージにて)


しかし盛選手は今年
強いアシスト選手からエースで走れる選手として
チームからもステップアップしたオーダーを任されていた。

インタビュー前半で言っていた
「トラックとロードは別物ではない」という言葉。
ロードシーズンに入る前に
トラックで世界と戦ってきた盛選手の足がそれを証明してくれたようにも映る。

国内、そしてアジアと愛三が活動するフィールドでの
ロードレーサーとしての自分自身の在り方。

盛選手が初めてエースを務めたのは
7月に行なわれた「ツールドコリアジャパン」だ。
日本と韓国の2つの国をまたいで初開催された全10ステージのレースは
初エースの盛選手にとって試練のときだったようだ。

Q
コリアジャパンを振り返って


とにかくしんどかった。
とにかく失敗してはいけないんだ、という思いが強くて
自分のために走ってくれるチームメイトのことを思うと
本当に失敗できないっていう思いが常にあった。

出だしはなかなか良かったのかもしれませんが
途中のステージでうまく走れなくて
自分の力不足を嫌でも実感したレースになりました。

Q
エースの重みを嫌でも感じたわけだ。


自分も普段はアシストをしますが
エースというのは本当に気持ちの部分が大きいことを学びました。
別府さんや西谷さん、綾部さんがレース後ぐったりしてる姿とか見ると
なんというかその重圧が・・・(笑)分かったし。

  
Q
ステージレースでのエースは重いよね。


今まで何度もステージレースは走っているし
エースの重みというのも・・・感じてはいたけど
想像していたものとは全然、本当に全然違った。

アシストとして何をしてほしいと考え
エースとして何ができるかを考え常に走ったことで
経験として、このエースは大きかったといえます。
次にレースを走る上で、とても勉強になりました。


2005年に愛三レーシングに所属してから今年で4年目。
チームの面々も少しずつ変わっていき
当時一番年齢が下だった盛選手も
今では愛三の中で中堅どころと呼ばれるような年齢と経験になった。

コリアジャパンに続き再びエースを務めたツールド北海道。
このレースで6戦中2勝をあげた盛選手。
だがステージレースでの栄誉はあくまでも個人総合時間である。



(2008年ツールド北海道第4ステージにて)


もちろんチーム一丸となって盛選手の総合を狙うべく
最後まで戦い続けたチーム、そして盛選手自身。
この北海道では結局、初日のロングステージで上位をしめた
数名の選手での総合優勝争いとなり総合を逆転をすることができなかった。

最終日は、チームメイト西谷選手のステージ優勝で締めくくられた。
もちろん総合を狙うことも重要だが
ステージ優勝を勝ち取ることは容易ではないのだし
自身も素晴らしい成績で北海道を終えられたのではないだろうか。

と思っていると思って

「どうだった?」と聞いた。

だけど盛選手の表情は、浮かない顔だった。

「まだまだです。」
その一言だけだった。顔は笑っていなかった。


Q
今後について聞かせてください


愛三に入って4年目。
自分の走りが少しずつチームに認められるようになってきた。
それは素直に嬉しいことです。

ロードに関しては「チームが勝てばいい」
その気持ちはたぶんみんな同じだし、変わることはない。
これまでも自分のために走ったことはないし
自分が勝てたレースはチームの勝利として受け止めています。
  
今後は一回でも多く、愛三の選手が表彰台に立てるようにしたい。

Q
それが今後のロードの目標?


うーん・・・
トラックの目標ならすんなり出てくるんですが・・・
ロードで目標、と言われると・・・難しいものですね(笑)

表彰台に立てるように、っていうのが目標かどうかわからないけど
チームが掲げているアジアツアー、
そして悲願の全日本チャンピオン、と勝てていないレースは
まだまだたくさんあります。  
自分でもいい、チームメイトでもいい、やはりそれは勝ちたいですね。



(2008年ツアーオブジャパン南信州ステージにて)


トラックとロード。
その2つの戦いは、確実に盛選手の存在感を創っている。

次のオリンピックは4年後。
この4年間で盛選手がどんな風に戦い、どんな風に成長していくのか。
楽しみで楽しみで、仕方がないのです。

・・・

ところでこのインタビューは、時間の都合上
マッサージを受けているときにお願いしたのですね。

身体をメンテナンスするのも選手の仕事。
この日は久しぶりに愛三のマッサー赤星さんのゴッドハンドで
選手達は、ほぐされつつ、悶えておりました(笑)

毎日走り、毎週のようにレースを転戦する選手達。
そんな中、トラックとロードをこなす盛選手の話しを聞いていると
思わず「大変だ・・・疲れるよね。すごいよね。」と連呼してしまって。

するとそんな私に答えるかのように
盛選手が、ポツリとこんなことを言いました。


「誠さんがいるからかな」


誠さん、とはBSアンカーの飯島誠選手のこと。
盛選手と同じくBSアンカーでロードを走り
トラック中距離界を引っ張るベテラン。
今年の北京五輪では、ポイントレースの日本代表として走った選手です。



(2008年アジア選手権で飯島選手・右と走る盛選手)


飯島選手は盛選手が今している、
トラックとロードの2つをこなすという選手生活を長年続け
第一線で活躍してきた、そういう選手なのです。


「誠さんは自分が今していることを、もうずっとやってきてる。
 やってきてる人が目の前にいたら、なんもいえませんよ。」


飯島誠の背中を見てきた盛選手のひとこと。
でも何年後かに、
彼自身がこんな風に誰かに言われる姿をきっと、見られる気がしました。


さあトラックシーズンの始まりです。
どんな戦いが待っているのか、本当に本当に楽しみです!