今回の『ツールド熊野』で、初エースを務めた綾部勇成選手に
インタビューです。
エースの重みを味わいながら、仲間とともに走る。
今まで経験できなかった、様々な思いがあったようです。
まず、台湾での落車のケガはもう大丈夫なの?
綾部
調子は絶好調か、といわれたら正直違ったけど
体は戻ってきてると感じられる中、スタートできた。
それなりに準備もできたし。
今回エースという大役を任された訳ですが・・・
どんな思いでレースに臨んだんでしょうか?
綾部
エース、といっても走り自体は変わんない。
ただ、レースまでにかけていく思いは一層強くなったし
責任感とか、普段より感じずにはいられなかった。
やっぱり、やるまでが一番緊張するわけで・・・。
走り始めたら、もうあとは結果までいくだけだから。
これまでは、アシストとしてチームの一員だったけど
今回は完全に自分1人が「エース」で
自分で勝ちを狙う、という前提だったから、責任の重大さを感じてた。
実際レースが始まってエースとしてどう戦えた?
綾部
第1ステージから、愛三がレースをつくって
いい滑り出しになったと思う。
第1ステージ、集団ゴールしたいと思ってて
最後はスプリントしたかったから、自分の理想のカタチになった。
チームの皆が最後まで引いてくれて安心してゴールまでいけた。
最後差せなかったのは、正直ホント悔しかった。
第2ステージは、他のメンバーより、自分が山登れるか心配で(笑)
でもしっかりついていけて、ゴール前で勝負・・・と思ったけど
うまくいかなかった。
思った以上に、自分へのマークがきついことを感じたし
他のチームが自分のことを良く見ているのが分かった。
でも、自分のやるべき仕事はしたつもりだったし
足的には、スプリントでいければ勝てるかな?という思いがあったけど、
連携がうまくいかず、囲まれて抜け出せなかった。
最終日、エース綾部ではなく、盛選手が逆転優勝。
綾部
最後、僕の逆転優勝もありえたし、廣瀬さん、盛も可能性があった。
チームに3人、狙える可能性がある状態。
どこよりも多くいいカードか使える、
最終日にその状態にもってきたのが、愛三としていいカタチだった。
作戦も、色々できた。
リーダーを早くおびき出して足を使わせてもいいし
盛が飛び出せば十分可能性があるので、リーダーチームは足を使う
盛がつかまったとしても、僕や廣瀬さんが攻撃ができる。
第3ステージは、完全に愛三レーシングがチーム力を発揮できる状態だった。
いるだけで、他のチームに不安要素を与えてたし
いるだけで、力をみせつけていた。
自分はエースで走って、結果総合5位だったけど・・・。
初日2位になっていなかったらタイム差は開いたし
第2ステージだって、遅れず最後勝負にからんだから
最終日、愛三のエースとしてマークされたわけで。
エースとして自分の仕事をしたことが
総合優勝につながったのだと思うし。
チームのために何が一番いいのか、を常に考えて走れたと思う。
エースで走ったことで見えたものは?
綾部
「エース」というのは、本当に初めての経験。
抜擢された時点で「チームの中で認められた」という思いが
一番にあった。
その後、レースまでどう仕上げたらいいのか?
体調もそうだし、練習の仕方もそう。
エースを告げられてからの3週間。
自分にできることは何かと、常に考えて過ごしていた。
初めて、って何をするにも、怖いじゃないですか。
今回エースを任されて、チームの結果が自分にかかっていることは
やっぱりプレッシャーを感じました。
ステージレースは、一日一日がすごく大切で。
でも逆に一日失敗しても取り戻せる面もあって。
リスクや守り、その境目を考えるのが、難しかった。
エースって、頭使うんだなぁって思った(笑)
そして、自分に力があれば、もっと違う作戦もできたんじゃないか
とも思ったりしてます。
この経験から、何か気持ちに変化はあった?
綾部
自分はね、何か武器があるわけじゃないって思ってるんです。
愛三だったら
泰治や盛の速さとか、別府さんの山での強さとか・・・。
色んな面でスペシャリストがいるなかで、
僕にはそれらがない。
でも今回で、まんべんなくこなせる、ということが
自分の一番の強みじゃないかって、思ったんです。
そういう選手って「やな存在」だと思う。
登りやスプリントのスペシャリストがいて
その選手、プラス、自分、といたら
注意しなきゃいけない相手がもう1人増えるわけじゃないですか。
やな存在と他のチームに示すことができれば・・・と。
西谷1人だけより、
西谷もいるけど、綾部もいるから気をつけないと・・って。
今回のレースで使えるカードが増やせたんじゃないかって、思ってる。
自分は一番じゃなくてもいいんです。
まんべんなく走れることが武器。
あとはそのレベルを底上げして、勝負にからめる働きができたらと思う。
チームのみんなが自分を信頼してくれて
のびのびとレースしてくれたら、そう思ってます。
・・・
今回エースを任された綾部選手。
自分のために他の選手が動くこと、だからそれに応える走りをすること。
彼がエースになったことで
愛三レーシングというチームが、またひとつ強くなった。
それは間違いありません。
自分は一番じゃなくてもいい。
そんな風にいえる綾部選手が、素晴らしいと思う。
でもそれは謙遜では決してない。
チームメイトの力をちゃんと把握し、認めているから
いえる発言だと思うし、
信頼しているから、自分の役割を見つめられるのだと思う。
見た目、クールでひょうひょうとした印象なんだけど。
一日目、区間2位になったときのインタビューで
愛三がレースをつくった
総合優勝だけとりにきたから取ります
っていったそうです。
ああ、強気発言(笑)
本気かウソかわからん顔で。彼らしい。
話しをしていると、本当に愛三のほかの選手を信頼していることが
良く分かります。
そして、愛三というチームで、勝ちたいという思い。
彼は、チームのバランスを保つ、大切な存在だということ。
エースという大役を任せられ、
またひとり、大きく成長した選手が増えました。
誰かが成長すると、周りも意識が変わるんだと思います。
またひとつ、感動をもらいました。
綾部勇成(あやべ たけあき)
1980年9月5日生 26歳
中央大学自転車競技部に所属し、
その後日本鋪道レーシングチームへ。
2003年からミヤタスバルレーシングで走り、
2005年愛三レーシングへ移籍。
今年4月のチャレンジロードでは、
先のツールド台湾の落車で肋骨を負傷したものの、見事2位入賞。
若い愛三レーシングの中堅選手として今年も力を発揮する。
・・・
さあさあさあ!
熊野が終わったと思ったら、あっというまにTOJですよ!
熊野でチーム力を発揮した愛三が、どんな戦いを見せてくれるのか?
期待しましょう!